マンドリンのための四季(第1集)解説

 

◯早川正昭作曲の「四季」を20年ほど前に、FM放送で耳にしたことがあります。日本の童謡や唱歌をヴィヴァルディの「四季」風に作曲・編曲されたもので、新鮮さを覚えました。そのことがきっかけで、マンドリン合奏のために同じような方法で書いたのがこの曲です。

◯第1集で演奏される曲は次のとおりです。
 イントロ → 春よこい → 海  → まっ赤な秋 → お祭り → 雪 → コーダ

◯解説
1 イントロ〜春よこい
   短いイントロでは、この曲を全体的に統一する完全四度のモチーフが低音に示され、高
  音に短い音形が現れます。この短い音形は今から演奏される「春よこい」の最初の音形を
  凝縮したモチーフです。これら二つのモチーフが高音と低音で同時に繰り返し示され、春
  の喜びを表現します。
   やがて拍子も変わって「春よこい」がいよいよ始まります。その後、この歌はピチカー
  トでも演奏され、春の雰囲気が更に強調されます。
   和声の面では、36節目と38小節目の3拍目に特徴があります。
   春になって土から芽が出る前に、土がぽこっと、ほんの少しだけ盛り上がりそこに少し
  ヒビがあって。そのヒビの中を覗くと、薄緑色の小さな芽が見えたのです。そのときに、
  思い付いたのがこの和声でした。この和声はシューベルトも好んで使っているように思い
  ます。
   「春よこい」のあとは、すぐ、イントロで使われた完全四度のモチーフが現れ、一方で
  は波しぶきを表す新しいモチーフも現れて、相互のかけあいを経て、次の「海」へと続
  きます。

2 海
   中学生のときの美術の教科書でクールベの「波」を見たとき、その絵の迫力から、教科
  書の写真は小さいけど、実際は大きい絵なんだろうあなあと思っていました。後に実物を
  見たときにその絵はそれほど大きくはなかったので驚きました。しかし、描かれている絵
  を見ていると、そこにはやっぱり中学生のときに感じたときと同じように、壮大な世界が
  ありました。そのような体験をこの「海」のオーケストレーションで示しています。
   「海」のおしまいは、完全四度のモチーフと波のしぶきのモチーフで大きく盛り上がり
  ます。

3 まっ赤な秋
   旋律が美しく、和声もふくよかで美しい曲です。秋の豊かな色彩をオーケストレーショ
  ンで表現しました。

4 お祭り
   日本の秋のもうひとつの代表的な風景・お祭り。その喜びを楽器を叩く音や、シンプル
  で特徴あるリズムと変拍子等で、ユーモラスに元気よく、賑やかに表現しています。

5 雪
   雪が次から次へと空から降って来るのを2階の窓から眺めていると、自分も一緒に地上
  全体がうちそろって空に上がって行くように見える瞬間があります。そのように感じる風
  景を音楽で表せないかと考えて見ましたが、力が及ばずこの曲のような出だしになりまし
  た。異なる調で雪のテーマが後から追いかけたり、低音域、中音域、高音域がそれぞれ時
  間を置いて次々と登場することで、次から次へと降って来る雪の様子を表現しています。

6 コーダ
   季節は巡り、春のよろこびを表すイントロの姿が再び現れて、それが更に長三度高い、
  明るい調に転調して曲を結びます。(甲田弘志)