管弦楽のための「ミューズの森」甲田弘志作曲

 

    「管弦楽のための『ミューズの森』」(出版:マザーアース株式会社)
管弦楽のための「ミューズの森」("Forest of the Muse" for full orchestra)解説

「雀通りの猫のうた」全24集の中の1曲。日頃の生活の中で発見した驚きや喜びをヒントに作曲したのが「雀通りの猫のうた」シリーズです。この「ミューズの森」を書くきっかけになったのは1冊の本・富山和子著の「森は生きている」(講談社)(写真:上右)でした。

 森は遠く離れた海を豊かにし、そこで暮らす人々の生活を支えています。ヒトが地球上に現れる遥か遠い昔から、空気や水の大循環の役目を果たし、多くの生命を育んでいる森。そのもとを尋ねるとたった一枚の葉っぱ・一滴の水に辿り着きます。これはあたかもひとつの音符が他とつながり小さなモチーフとなり、それらが互いに影響し合い、和声という空間の中で様々な姿に変化しながらついには壮大な交響曲へと発展していくのに似ていると感じて、作曲を思い立ちました。

 森の中の、静謐で有機物に満ちたひんやりとした空気や、そこかしこに漂う木霊の気配、木の葉のざわめきや鳥の声。土の中では、空に飛び立つときを7年待つ蝉の子供たちや無数の虫たち。1トンの水を抱くと言われる1本の木の根。そこからつながる地下水脈まで思いを巡らせながら書きました。

 2016年の熊本地震では樹木の被害も尽大で、山腹崩壊による被害面積は104ヘクタールに及び、阿蘇から流れ出る川の水は今も濁ったまま有明海に注いでいます。地震で失われた貴重な樹木がこれから長い年月をかけて再び天然のダムとして育ち、川にはカワセミやサギが戻り、森が生きとし生けるもの・生命の揺籃として蘇えっていくことを願ってオーケストレーションしました。

 曲の構成は基本的に古典的なソナタ形式に拠っていますが、再現部の後に再び展開部を配置しております。
 前奏(1~)、呈示部(10~)、展開部(94~)、再現部(247~)、第2展開部(283~)、終結部(336~405)。

 呈示部の第1主題(10~)は「線」による無機質で調性感のない全音音階から成り、「点」による旋律の第2主題(68~)は和声が忙しく変化することで調性を強調します。お互いに正反対の性格を持つ2つの主題が、競い合い影響し合って多様に変化しながら発展していきます。そして室内楽風の第2展開部ではピチカートに乗って各楽器のソロを交えた ”ミューズの女神“も姿を現し、おしまいは第2主題に刺激され調性を得て今や大きく成長した第1主題が、変化する和声のうねりの中で堂々と登場し(375~394)、やがて第2主題から生まれた変拍子(Scherzando)の余韻と共に、曲は遠く静寂の中に消えていきます。

    児童図書「森は生きている」にヒントを得て、ソナタ形式を子供たちに分かりやすいように、と思って書きました。

    (*)表紙絵は曲の題名の由来となった「ミューズ」(写真:上左)。作者は久永強(1917年~2004年)。
         代表作に「シベリアシリーズ」(世田谷美術館所蔵)がある。


(参考音源)
 YouTube 限定公開(音は機械音です)→
https://youtu.be/JWj4ajiDe0c


 ◯楽器編成
   Fl(2)、Ob(2)、Cl(2)、Bsn(2)、Hrn(4)、Tpt(2)、Trb(3)、Timp(1)、
   及び、弦5部。
 
 ◯初演記録

   2018年10月21日、熊本県立劇場コンサートホールにおいて「管弦楽とマンドリンオーケストラのための
  『ミューズの森』」として初演。

   演奏:Vn(岩橋和江・龍野珠美・黒葛原康子・寺地愛・中尾麻美子・西村勇也・船津真美子・柚原三弥子)、
      Va(甲田啓子・黒葛原潔)、Vc(石垣博志・山川展雅)、 Cb(原田直実・丸山修二)、
      Fl(岡村暁子・日野栄理)、Cl(春日香南・笠千帆)、 Bsn(黒田孔太郎)、Hrn(斉藤恵之・猿渡伸之)、
      Timp(尾下香織)、及び、熊本マンドリン協会
 ほか。指揮(甲田弘志)。


 ◯演奏時間:16分

 ◯ISMN979−0−65003−429−6

 ◯サイズ W21 × H29.7

 ◯初版発行 2019.7.15

 ◯定価等:A4スコア 405小節 81ページ 7,000円(税別)

 ◯レンタルパート譜あります。→
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甲田弘志プロフィール

 1947年熊本市生まれ。九州音楽幼稚園在園中に井上萬里子園長から毎日聞かされたレコードに興味を持ち10歳からスコアを見ながらレコードを聴き始め、オーケストレーションや和声の妙を知る。
 作曲は独学。「ミューズの森」はJMUが実施した第6回作曲コンクールで池辺晋一郎氏から最高点を得て全国第2位に入賞。池辺晋一郎氏評「書式、構成ともにしっかりしている。拍節やリズム感覚も明晰。変化に富んでいてよくできた曲である」
 これまでに「フルートとピアノのための『茶色の朝』」、「コンラート・ラテに捧げるピアノトリオ」等がマザーアース社から出版されている。現在(学校法人)九州音楽学園監事・非常勤講師、九州作曲家協会会員、熊本県文化懇話会会員。