茶色の朝

 

「雀通りの猫のうた」から
フルートとピアノのための「茶色の朝」
                    甲田弘志 作曲

 かつてフランスでベストセラーとなった寓話「茶色の朝」にヒントを得て、フルートとピアノのために作曲しました。
 この短い寓話は、知らないうちに、いつの間にか、どこでも起こり得るような、何よりも恐ろしく怖い物語です。
 ある国の
政府が、茶色の犬や猫の方がより健康で生活にもなじむという理由から、茶色以外のペットは飼ってはいけないという声明を発表します。その程度のことなら自分の生活とは関係がないと、人々が無関心でいると、やがてこの政府に反対する新聞が廃刊になったり・・・・・・・・・・・。
 そしてついには・・・。
 この寓話で茶色は、
初期のナチの 制服の色を表し、ファシズムの象徴となっています。
 曲は次の3つの楽章から成り、それぞれ(作曲者による)タイトルが付いています。
 現代音楽は一方で難解と言われますが、現代の文学や美術の分野と同じように、現代社会の反映として音楽もあると言えます。
 となれば、現代音楽が難解なのは現代という時代そのものの姿を反映しているからかも知れません。
 この曲は、すべてが完全な無調ではなく、変拍子で変化を付けたり、調性が明確な部分も取り入れて、誰もが親しめるようにと願って作曲されています。

 第1楽章
  「眠れぬ猫の独り言」
    ピアノの強く短い低いE音から自然に発生する自然倍音の微かな
   音(高いH音)に続く、音になる以前のフルート奏者の息の音が
   そのままH音に移り変わって、音楽が始まります。
 第2楽章
  「今朝のニュースはホントかな?と雀たちが・・・」
    新聞を読んだ人たちがニュースの奥に隠された真実を探ろうと
   して、賑やかに喋り合います。
 第3楽章
  「沈黙の木陰、そして再び・・・」
    沈黙することで静かに抵抗し、じっと耐えながら時を待つ孤独
   な世界。おしまいの音は、曲の始まりと同じE音です。

◯初演は、2005年3月18日(金)福岡市あいれふホール 現代九州・音の創造空間

「茶色の朝」フランク・パヴロフ著  藤本一勇訳  大月書店